The roots/…And then you shoot your cousin: 久々の新作となります。クエストラヴやブラックソートは今回もメンバーリストの筆頭に記載されていますが、プロデューサーとしては（キーボード奏者としてメジャーの仕事が多かった）レイ・アングリーや（準メンバーとしていい）カール・ジャーキンス、ダミオン・ワードの名前が複数曲で見られます。なお今回はラヒーム・デヴォーンがゲストとして参加しています。ヒップホップの”バンド”として先駆者でした彼らですが、シーンが変動してもフォロワーのような人はあまり出てきません。どちらかというと白人バンドが彼らに近い芸風にアプローチしていることが多いです。かと言ってこれまでロックな音に寄っていかないのは彼らがブレていない証拠ではないかと思われます。今回はノイジーでパンキッシュな音が少し増えていますね。同時にリリカルなボーカルが箸休めとして挿入されていたりもします。まあテンプレートなヒップホップとして楽しめなくなりつつあるのも事実です。次回作あたりでは初心回帰しそうですがどうでしょうか。過去作のファンなら今作も買うべきかとは思います。
Daz dilly/Weed money: 久々に単独でリリースしたと思ったら変名になっています。今後はこれで行くんでしょうかね。制作陣を確認しますと（ＷＣとの合体皿にビートを提供していました）トリッピー・キーズが全曲を仕切る形。１曲だけディム・ファンクの制作曲（恐らくスヌープ近作のアウトテイク）になっています。ゲストはスヌープ、コラプト、スーパフライのほかＺ・ロウ、トレエ、ヤング・バック、マーフィー・リーなど懐かしい面子も含めてなかなか豪華です。昨年の合体皿は西回帰でしたが、今回は新しい音の要素も入れようと思っているらしく、ケンドリック・ラマーやＥＤＭにも似た短いループを使った曲やサウス寄りのビートなどが入っています。ラップのテンションが高めでかつ本人の出番も多く、こうしたビートを乗りこなす意欲があるのでしょう。確かにアップデートされた感はありまして、９０年代の人が無理に今風にしているような居心地の悪さはありません。プロデューサーでもありましたし、やっぱり器用な人ですね。過去作のファンも楽しめるメロウ曲もありますので試聴してみてください。
The cunninlynguists/Strange journey 3: 東っぽいですけど彼らはサウスがそもそもの出でして、新作はＥＵ発になっています。マニア受けする音はやはりワールドワイドでニッチ拾いを心がけないといけないのでしょう。今回も基本的にプロデュースはメンバーのノーが手がける形。１曲だけＲＪＤ２がマスタ・エースのゲスト参加込みで１曲、（ノルウェーの人であります）ソーマックスが１曲ビートを提供しています。ゲストはハイエロのデルやマース、ザイオン・Ｉ、Ｊ・ライヴなど。生まれつきのビート職人でありますノーだけありまして、単一プロデューサーによる弊害はありません。早回しっぽいボーカルを配した曲やホーンが目立つレトロ調、コモンっぽい寂しさの曲など１枚通して聴いても単調に感じる瞬間はありません。対峙するラッパーもビートの隙間にフロウを刻み付けるようでいい感じの緊張感です。そこそこポップでもありますのでメジャー皿中心に聴いている人でも楽しめるんじゃないでしょうか。ネタ重視のビートメーカーが最近はどんな音を作っているか興味があれば試してみてください。
Iamsu/Sincerely yours: ウィズ・カリファや２チェインズなど有名どころのお皿にフィーチュアされたりビートを提供していましたこの人、メジャー仕事が増えているのにアルバムはマイナーからリリースされています。制作陣は豪華でして、ザ・ビズネスが３曲、ジェイク・ワン、チェイス・ン・チェイスが１曲ずつ、そして本人が５曲を担当、ゲストもこれまで客演したカリファやＥ－４０などを中心にメジャー皿としてもいいくらいの面子が揃っています。そもそもビートメーカーとして表舞台にでていましたせいもあって曲は統一感がありまして安定しています。フューチャーあたりに近いナヨ目の作風で、フロウよりは歌がメインとしていいような曲もあります。ただ本家よりは若干ドライで最近のラップのようにニューウエーブっぽいシンセが主体になっていたりもしています。ビートを提供しているサージ・ザ・ジェミナイとかの音にも近いでしょう。ラップは大人しいタイプでドレイクあたりの影響が見られますね。旬な人の旬な１枚ですから聴かずに買っても納得できると思います。
Lil wyte/No sick days: フレイジャー・ボーイとの合体皿が最近出ていましたリル・ワイトが個人名義の新作も出しています。ちょっとカニエの近作みたいなジャケデザインですね。コア層ウケを狙っているのでしょうか。制作陣は白人プロデューサーのストーナーという人がメインで全体の３割くらいを担当。これ以外ですと（過去作にも参加があった）アヴェンジャーズ、（ＢＧのお皿に参加していた）シーン・シャウネシーなどがビートを供給。ゲストにフレイジャーやジェリーロールなどが参加していまして基本的にはここ数年の人的リソースを活用していると思われます。聴いてみますと過去作と比較して気持ちＢＰＭが低めになっており、ビート面ではゆったり聴ける曲が増えています。ただ本人のラップは声も張ってテンション高めです。その意味では過去作と同じに聴けるでしょう。ところでマフィアー！といったコールが本作でも使われていますけどＴ６Ｍ本体を継承しつつあるってことなんでしょうかね。詳しくない人が聴いたら関連商品と思うような出来ですし、ファンなら今回も買うべきとは思います。
Slim thug/Boss life: かつてはファレルのレーベルに属していましたこの人、新作は元雇用主の好調とは別に完全マイナーからのリリースとなります。ただ制作陣は結構良いです。ミスター・リーが４曲、ビッグ・クリットが２曲、プレイ・イン・スキルズが１曲、（スヌープの過去作にも参加していた）Ｇ・ラック＆Ｂ・ドンなどがビートを供給。ゲストはバン・Ｂやリル・キキ、Ｚ・ローなどが集まっています。再起を誓うこのアルバムで彼が指向したのはＵＧＫのようなイナタい路線とトレンドの追求のようで、古いソウルからのファンキーなサンプリングやストーナー路線のビートが増えています。本人のラップもバン・Ｂのような敷き詰めっぽいフロウが増加していまして単位時間あたりのワード数で数パーセントくらい向上しているんじゃないでしょうか。同期生みたいなもんですから仕上がりもまずまず。ビートメーカーによる音の差分も最少です。マイナーらしくメジャーのようなクリアな音にはなっていないんですけど、そこがまたロウで良い…という人もあるでしょう。ファンなら今回も購入必須の１枚です。
Sleepy d/Don't go to sleep: Ｅ－４０などと同じベイエリアの人で、そもそもはシズ系で演っていました人です。新作はシズのロゴがありませんで、同じレーベルのＤ－ｌｏと同様に離脱があったと思われます。本作はプロデュースクレジットなしでして、制作にどんな人が関与したかの記載がありません。ただ同時期に出ていますＤ－ｌｏなどのアルバムから想像すると、リーグ・オブ・スタッツやロゥ・スムーヴの参加があった可能性もあります。また多くの曲にホングリーなるラッパーがフィーチュアされていまして基本的には身内を中心に回していたようにも見受けられます。猟奇的なジャケデザインから想像するに、今風な隙間多めの音になると思っていましたが、そこはオークランド産、ハイフィーをベースとした厚めのシンセ音とシズ風ののらりくらりとしたフロウが展開されます。同産地の大御所と比較すると少し軽く聴けるのが特徴的です。まあ古いっちゃあ古いですかね。かの地ではまだまだ需要があるのでしょう。試聴してよければ買ってみてください。
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